カンザスシティ連銀金融ストレス指数構成要素のヒートマップ
金融ストレス指数とは、金融活動の過熱および停滞を捉えるための指標であり、各国中銀がそれぞれ算出を行なっている。この指数は金融活動指標で構成されており、主に金利指標や株価、マーケットボラティリティなどを含むものである。米国では、カンザスシティ連銀が金融ストレス指数を月1回、セントルイス連銀が週1回公表している。また日銀でも金融活動指標の作成を行なっている(石川他(2012))。
今回はEconomic Time Series Data Analyzerを用いて、カンザスシティ連銀金融ストレス指数の各要素からいくつか選定し、各要素のヒートマップチャートを描いて検証していく。その前にカンザスシティ連銀金融ストレス指数について簡単に述べておく。Hakkio,Keeton(2009)のペーパーでは冒頭以下のように述べられている。
The U.S. economy is currently experiencing a period of significant financial stress. This stress has contributed to the downturn in the economy by boosting the cost of credit and making businesses, households, and financial institutions highly cautious. To alleviate the financial stress and counteract its effects on the economy, the Federal Reserve has reduced the federal funds rate target substantially and undertaken unprecedented actions to support the functioning of financial markets. There will come a point, however, when the Federal Reserve needs to remove liquidity from the economy and unwind special lending programs to ensure a return to sustainable growth with low inflation.
(抄訳)米国経済は、現在著しい金融ストレスの時期にある。このストレスは、信用コストの押し上げによって経済が落ち込んでいくのに寄与し、また企業や家計、金融機関に高い警戒を持たせている。金融ストレスを緩和するため、あるいは経済にその効果を打ち消すため、Fedは大幅にFF金利を引き下げ、金融市場の機能をサポートするために前例のないアクションを行った。しかしながら、低いインフレを伴った持続可能な経済成長に戻ることを可能にするために、Fedが経済から流動性を取り除き、特別な貸出プログラムを引き戻すことが必要となった時がポイントとなってくる。
In past recoveries, the decision when to tighten policy was based mainly on the strength of business and consumer spending and the degree of upward pressure on prices and wages. An additional element in the current exit strategy will be determining if financial stress is no longer high enough to endanger economic recovery. As financial conditions begin to improve, the various measures of financial stress that the Federal Reserve monitors may give mixed signals. In this situation, policymakers would greatly benefit from having a single, comprehensive index of financial stress. Such an index could also prove valuable further down the road, when the Federal Reserve might again need to decide whether financial stress was serious enough to warrant special attention.
過去の回復過程において、政策の引き締めの時期を決めるのは、主に企業や家計消費支出が強化され、価格や賃金に上方圧力が掛かることが基本となっている。さらに現在の出口戦略の要素は、もし金融ストレスがもはや経済回復にダメージを与えないのに十分である場合に決定される。金融の状況が改善し始めた時、Fedが監視している金融ストレスの様々な指標は混在したシグナルを送るだろう。この状況において、政策担当者はシグナル、すなわち金融ストレスの包括的なインデックスを持つことにより大きな恩恵を得るだろう。Fedが金融ストレスが特別な注意を保証するのに十分であるかどうかを決めるときに、そのようなインデックスはこれから先貴重なものとなることを証明するだろう。
This article presents a new index of financial stress - the Kansas City Financial Stress Index (KCFSI). The article explains how the components of the KCFSI capture key aspects of financial stress and shows that high values of the KCFSI have tended to coincide with known periods of financial stress. The article also shows that the KCFSI provides valuable information about future economic growth.
この記事では、カンザスシティ金融ストレス指数(KCFSI)について提示する。この記事では、どのようにKCFSIの要素が金融ストレスの重要な側面をキャプチャするかを説明し、KCFSIの高い値が、金融ストレスの時期として知られているものと一致する傾向となっているかを示す。この記事は将来の経済成長について価値ある情報を提供することを示す。
そして各構成要素についての説明が続くが、一般的に金融ストレスは通常の金融市場の機能が寸断されることが考えられている。それは、資産のファンダメンタルズ的な価値について不確実性が増すこと、他の投資家の振る舞いについて不確実性が増すこと、情報の非対称性が増すこと、リスク資産を保有する意欲が減少すること(フライ・トゥ・クオリティ/FTQ)、流動性の不足している資産を保有する意欲が減少すること(フライ・トゥ・リクイディティ/FTL)といった観点があり、それらの現象を表す指標をピックアップし、構成要素としている。
(1)3カ月LIBOR-3カ月T-bill(Tedスプレッド):FTQ、FTL、情報の非対称性の増大
(2)2年スワップスプレッド:FTQ、FTL
(3)オフ・ザ・ラン/オン・ザ・ラン10年債スプレッド(カレントの10年債からそれより前に発行された同年限の債券利回りのスプレッド):FTL
(4)Aaa格社債/10年債スプレッド:FTL
(5)Baa格社債/Aaa格スプレッド:FTQ、情報の非対称性の増大
(6)ハイイールド社債/Baa格スプレッド:FTQ、FTL、情報の非対称性の増大
(7)コンシューマーABS/5年債スプレッド:FTQ、情報の非対称性の増大
(8)株価と債券利回りの負の相関:FTQ
(9)全体の株価のインプライドボラティリティ(VIX):資産のファンダメンタルズ的な価値についての不確実性の増大、他の投資家の振る舞いについての不確実性の増大
(10)銀行株のボラティリティ(IVOL):資産のファンダメンタルズ的な価値についての不確実性の増大、他の投資家の振る舞いについての不確実性の増大
(11)銀行株収益率のクロスセッション分散:情報の非対称性の増大
これらの指標について主成分分析を行い、その結果が以下の表となっている。この結果から指標を求めている。

ここから、カンザスシティ連銀金融ストレス指数の各要素について、Economic Time Series Data Analyzerのヒートマップモジュールを使い、ヒートマップで表すわけだが、このヒートマップ機能について簡単に述べておきたい。このヒートマップ機能では、t期間の各要素について、標準偏差を求め、t期間の要素の平均からどの程度乖離しているか、-3標準偏差から+3標準偏差に分けてそれぞれの区分で色分けを行なっている。つまり、経済や金融活動が過熱していれば赤で表され、一方で停滞していれば青で表示される。
そしてカンザスシティ連銀金融ストレス指数の各要素についてであるが、FREDのデータベースから求められない要素である(3)、(10)、(11)を除外し、さらに(8)についてもヒートマップモジュールで適切な期間で相関係数を求める機能については未提供であるので、除外する。(7)については、コンシューマABSの代替としてモーゲージ金利の代表的な指標であるフレディマック30年固定モーゲージ金利を採用し、ベンチマークとして米30年債金利を用いた。また(6)のハイイールド社債の金利については、BofA Merrill Lynch US High Yield BB Effective Yieldを用い、社債利回りについては、Moody's Seasoned Aaa Corporate Bond Yield、Moody's Seasoned Baa Corporate Bond Yieldを使用した。すべての情報がFREDで提供されているのは30年債の発行が再開された2006年2月9日以降であり、そこから現在(2012年5月7日)の期間を取り、週次ベースでの各指標のヒートマップは以下のようになった。
・統計基本情報

・ヒートマップ

・KC連銀金融ストレス指数

*(USD3MTD156N-DTB3)はTedスプレッド、DSWP2-USD3MTD156Nは2年スワップスプレッド、DAAA-DGS10はAaa格社債スプレッド、DBAA-DAAAはBaa格-Aaa格スプレッド、BAMLH0A1HYBBEY-DBAAはジャンク債-Baaスプレッド、MORTGAGE30US-DGS30はモーゲージ金利-30年債スプレッド、VIXCLSはVIX指数を表す。
これをみると、リーマン・ショック(2008年9月)以降、各指標は異常値をとってきており、+第3標準偏差(スワップスプレッドは-3標準偏差)となっている。その後Fedの流動性対策が功を奏し、Tedスプレッドや社債スプレッド、モーゲージスプレッドは安定してきている。またVIXも安定している。しかし、2011年以降欧州金融危機の影響から所々でヒートマップがまだら模様となっている。特にVIXやBaa格-Aaa格スプレッド、ジャンク債-Baa格スプレッドは過去の平均よりも上方乖離し、金融ストレスがやや掛かった状態となっている。
また、直近1年間の各指標のヒートマップは以下の通りである。

これをみると、昨年の夏場に米国連邦政府債務上限引き上げを巡る政治的な混乱や、米国信用格付け引き下げ懸念、ギリシャ情勢の不安定さから各指標ともに急激に平均から乖離し金融市場の緊張状態が読み取れる。その後趨勢として昨年11月末の各国中銀のドルスワップ取極の強化により市場が安定に向かいつつあることからいくつかの指標はストレスが解消してきている。しかし、今週以降、欧州の緊張状態の度合いが高まれば、金融にストレスが掛かりやすくなり、これらのヒートマップも上方乖離を示すものが多く出てくる可能性もある。引き続きこれらの指標のヒートマップの動向には注意深く監視が必要であると言える。
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タグ: マーケット Fed マクロプルーデンス4月雇用統計〜雇用市場の減速感鮮明に
非農業部門雇用者数 +11.5万人
民間部門雇用者数 +13.0万人
失業率(U-3) 8.1%
週間平均労働時間 34.5h
平均時間あたり賃金 23.38ドル
U-6失業率 14.5%
(1)非農業部門雇用者数増減(単位:千人)と失業率の推移

(2)非農業部門雇用者数がリセッション前の水準を取り戻すまでの期間(WW2以降)

(3)民間雇用者数(単位:千人)の推移

(4)週次あたり平均賃金=時間あたり賃金*週間平均労働時間(単位:ドル)の推移

(5)27週以上の失業者数=長期失業者(単位:千人)の推移

(6)労働参加率(単位:%)の推移

(7)労働投入量(前年同期比%)の推移

■ESTABLISHMENT SURVEY(事業者調査)
・非農業部門雇用者数は11.5万人増加し、市場予想の17万人増を下回り、ヘッドラインとしてはネガティブなものとなった。但し、3月は速報の12.0万人から15.4万人に上方修正され、2月も二次速報の24.0万人増加から25.9万人増加に上方修正された。3月の雇用増加幅が上方修正されたのはポジティブであったが、これは観光・接客業(速報値は3.7万人増加、二次速報で5.2万人増加)、小売業(速報値3.38万人減少、二次速報で2.09万人減少)などの業種で大幅な上方修正がみられたことによる。しかし、趨勢的には減速感が強まっているものとみられる。
・製造業は1.4万人の増加となり、3月の3.8万人増加から比べれば雇用の伸びは減速している。内訳は、鉱業・掘削業で変わらず、建設業で2千人減、製造工業(Manufacturing)で1.6万人増加、うち耐久財で1.5万人増加、非耐久財で1千人増加となった。さらに耐久財のうち、自動車及び部品は1千人の増加に留まった。これまで、自動車関連の雇用は製造業の雇用及び業況を牽引してきた。しかし、4月の自動車関連の雇用の伸び悩みは製造業の業況に陰りが見え始めた可能性がある。自動車産業が活発なシカゴ地区の4月のPMIは56.2と前月から大きく低下してきており、同業種の失速感を強くするものとなっている。
・非製造業は11.6万人増加となり、3月の12.8万人増から減速した。卸売は7.4千人増加、小売は2.93万人増加、運輸・倉庫は1.66万人減少、情報は2千人減少、金融業は1千人増加、専門業・ビジネスサービス業は6.2万人増加、教育・ヘルスサービスは2.3万人増加、観光・接客業は1.2万人増加となった。サービス業の減速の要因としては、運輸・倉庫業での雇用の減少と、教育・ヘルスサービス業での雇用増が頭打ちになり、さらにサービス業の雇用増を牽引した観光・接客業の雇用が伸び悩んだことが挙げられる。運輸・倉庫業では特にTransit and ground passenger transportation(旅客輸送業)で大きな減少となっており、アメリカン航空の破綻により人員削減が行われた(破綻時に1.3万人ほどの人員を削減する計画、追加で1000人の削減策もある)影響が出ているものと思われる。しかし、観光業のうち、Arts, entertainment, and recreation(美術、娯楽、レクリエーション業)で雇用が減っていることからすると、米国人のレジャー支出が減ってきている可能性がある。もっともイースター休暇の反動でこういった雇用が減っている可能性もあるため、留意は必要である。また、年初からの同業種の雇用増については、天候が穏やかだったこともあり押し上げられたという可能性もある。なお、人材派遣は2.11万人増加となっている。先行き需要見通しが立たない中でこうしたテンポラリーな人員確保を進めていた可能性がある。
・政府部門は1.5万人減となった。内訳は、連邦政府で4千人減、州政府で5.5千人増加、地方政府1.07万人減少となっている。地方政府については、教員の削減が大きく、教員以外の削減幅はそれほど大きくはないことから、緩やかに下げ止まり感が出てきているという見方を変えるものではない。以下は地方政府の人員の推移である(出所:米労働省)。

・非農業部門の週間平均労働時間は34.5時間となり、週間平均労働時間と民間雇用者数増減を掛けあわせた民間部門の労働投入量は前年比2.2%の増加となった。また時間あたり平均賃金は23.38ドルとなったことから、週次あたりの平均賃金は前月から34セント増加の806.61ドルとなった。賃金の伸びは極めて鈍いことが裏付けられており、賃金インフレの兆しはない。
■HOUSEHOLD SURVEY(家計調査)
失業率は8.1%(8.098%)となり、前月から0.1%低下した。

失業率を求める際の分母となる労働人口は前月から34.2万人減少、分子となる失業者は17.3万人減少となったことを受けて失業率が低下した。また就業者(Employed)は16.9万人減少、非労働力人口(Not in labor force)は52.2万人増加となったことから、労働市場からの退出が膨らんだことが失業率を低下させた。従って、ネガティブな失業率低下ということになる。労働参加率(Participation rate)は63.6%に低下し、ここ25年で最も低い水準にある。年齢・性別別の労働参加率の増減をみても、20歳以上の男性が前月から0.4ポイント低下していることから、育児産休で労働人口が大きく減ったという印象ではない。後述するが、4月の長期失業者は大きく減少していることから、長期失業により職探しを諦め、労働市場から退出した人が多くなっている。非労働力人口のうち、Persons who currently want a job(現在職を求めている人)は6.7万人増加していることから、そういった事情である可能性が強い。長期失業者は前月から20.7万人減少の510.1万人となり、失業者全体に占める割合は41.63%となった。依然として長期失業の水準は高いものの、徐々に低下してきている。このこと自体は一見ポジティブではあるものの、非労働力人口の増加が長期失業者を減らした可能性があるだけに、実際は決してポジティブな要素だけではないものと考えられる。
■4月雇用統計の評価とFedの動向
4月の雇用統計も概ねネガティブな評価が多いものと思われる。
ポジティブファクター:特になし(強いて言えば3月の雇用者数が上方修正されたこと)
ネガティブファクター:製造業の雇用増が頭打ちになってきていること、非農業部門雇用者数の増加が伸び悩んだこと、賃金の伸びが緩慢であること、労働参加率が低下したこと
特に、家計調査においては一見するとヘッドラインの数字はポジティブなようにみえるが、労働市場からの退出が多く発生していることを踏まえると、全体的にネガティブな結果だったといえる。前月のエントリでも述べたが、バーナンキ議長の言からすれば、「長期失業により労働者のスキルが奪われ、雇用のミスマッチを生み、労働力への執着を萎縮させ(labor force attachment atrophy further)、長期失業が構造的な要因に転換してしまう」ということであり、その文脈から職探しを諦めて非労働力となった人が多くなったのはネガティブだろうと思われる。
そしてこのところ雇用だけでなく、米国の経済活動を表す指標は軒並み失速を示唆している。3月の耐久財受注は2009年1月以来の大幅な減少となる前月比4.2%減となり、製造業の経済活動が失速していることが示唆されている。また非製造業においても先日発表されたISM非製造業景気指数は53.6に低下し、製造業だけではなく、サービス業の業況モメンタムも低下してきている。以下はISM非製造業景気指数の推移である(出所:FRED)。

以下のグラフは米国の経済活動を表す各指標のヒートマップチャートである(出所:FRED)。

順に、ISM製造業景気指数(PMI)、ISM非製造業景気指数(NMI)、非農業部門雇用者数増減、製造業新規受注(前月比%)、鉱工業生産指数(前月比%)、自動車販売(前月比%)について2000年からのデータを取得し、標準偏差を取って現在の位置が平均値からどの程度離れているかを示したものである。すでにISM非製造業景気指数、製造業新規受注、鉱工業生産指数、自動車販売は過去の平均から下方乖離してきており、経済活動の減速感を示唆するものとなっている。
そして今回の雇用統計でも雇用が伸び悩んでいることが示唆されておりり(ヒートマップはまだ平均から上方乖離となっているが)、米国経済の減速感を強く滲ませたものとなっている。このことから、循環的な米国の景気減速という動きとなっており、Fedとしても現行のフォワードガイダンスに示された時期を再表明することで、緩和姿勢の継続をマーケットにアピールすることになろう。仮に米国の成長が腰折れする事態となればフォワードガイダンスに示された時期を後ずれさせて緩和期間の長期化をマーケットに織り込ませることも考えられるが、現時点ではそこまでは至っていないものと考えられる。また現段階で物価上昇率はフォワードガイダンスの後ずれを支持するものではない。3月のコアPCEデフレータは前年比1.9%の伸びとなっており、目標としている2%に接近している。以下はコアPCEデフレータの推移(前年同期比、出所:FRED)。

中期的に目標を下回って推移すると予測しているが、短期的には予測を上振れている。最低賃金がインフレ率に連動している欧州や、ホームメイドインフレの兆しがある英国とは異なり現時点でパススルーなど二次的効果は限定的であろうと思われるが、それでもガソリン価格の高騰などが一時的なものではなく、高止まりするようなことになれば、期待インフレ率が上昇していくことも考えられる。また賃金は極めて抑制されていることは本日の統計でも示されたが、ユニットレーバーコストの上昇基調は続いている。オバマケアによる影響が大きく、特殊要因ではあるものの、特にインフレを警戒するタカ派の連銀高官などからすれば、緩和姿勢の強化を支持できる材料ではない。以下はユニットレーバーコストの推移である(出所:FRED)。

従って、労働市場が軟化しているということは緩和強化をサポートするものではあるものの、一方で物価については、賃金の伸びが極めて鈍いことがスラックの大きさを物語るものとなっているものの、マンデートに接近している状況で、さらにガソリン価格の高騰が購買力を低下させ、消費者マインドを低下させる一因にもなっていることから、緩和強化を支持するとは必ずしも言い切れない。但し、米経済の失速もしくはその懸念がエネルギー価格を押し下げるのであれば、次第にインフレ圧力も緩和していくことにも繋がる。そうした時期を見極めるまでは基本的に"Wait And See"なのだろうと思われる。
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タグ: マクロ 米国 雇用統計 FedFOMC〜フォワードガイダンスは据え置き
■経済認識
今回のFOMCでは経済認識にいくつかの変化があった。以下は前回(左)と今回(右)のステートメントの第1パラグラフ及び第2パラグラフの比較である。なお、赤で示されたものは文言の変更、左側(前回の声明文)の緑の打ち消し線は今回削除された文言、右側(今回の声明文)のアンダーライン付き青で示されたものは今回追加されたものである。

まず、労働市場については、
(前回) Labor market conditions have improved further
労働市場の状況はさらに改善している
(今回)Labor market conditions have improved in recent months
労働市場の状況はここ数ヶ月で改善している
労働市場については、前回の"improved further"(さらに改善)という文言から、"improved in recent months"(ここ数ヶ月で改善)としており、回復は継続的なものであるという認識となった。
住宅市場については、
(前回)The housing sector remains depressed.
住宅市場は低迷したままである
(今回)Despite some signs of improvement, the housing sector remains depressed.
いくつかの改善の兆候があるが、住宅市場は低迷したままである
としており、いくつかの改善の兆候について言及しており、住宅市場についての現状認識は一歩前進したことになる。米国において今冬は記録的な暖冬であり、建設稼働率などが上昇したということもあるが、それでも販売等はまだまだ落ち込んだままであり、引き続き楽観的な見方は出来ないものと思われる。
物価については、
(前回)Inflation has been subdued in recent months, although prices of crude oil and gasoline have increased lately.
原油やガソリン価格が最近上昇しているが、インフレはここ数ヶ月で安定している。
(今回)Inflation has picked up somewhat, mainly reflecting higher prices of crude oil and gasoline.
インフレはやや上向きになっており、主に原油やガソリンの高騰を反映している。
このような見方から、物価認識について上方修正を行なっている。物価の上昇については、第2パラグラフにあるように一時的なものでしかない(only temporarily)としており、コモディティ高については、持続的な物価上昇に至らないという見方を踏襲している。インフレ期待も安定していることから、物価が安定していくだろうという見方には特に変化がない。
第2パラグラフにおいては、経済見通しについて上方修正を行なっている。
(前回)The Committee expects moderate economic growth over coming quarters
委員会は今後数四半期において緩やかな経済成長を予測している
(今回)The Committee expects economic growth to remain moderate over coming quarters and then to pick up gradually.
委員会は今後数四半期は緩やかな経済成長、そして徐々に上向きになっていくと予測している。
このようなことから、今後数四半期は緩やかな経済成長となるものの、その後は加速していくという見方を行なっており、一段踏み込んだ認識となっている。
一方でダウンサイドリスクについては、グローバルな金融市場における認識であるが、
(前回)Strains in global financial markets have eased, though they continue to pose significant downside risks to the economic outlook.
グローバルな金融市場の緊張は最近緩和されたが、経済見通しに著しいダウンサイドリスクを想起し続けている
(今回)Strains in global financial markets continue to pose significant downside risks to the economic outlook.
グローバルな金融市場の緊張は経済見通しに著しいダウンサイドリスクを想起し続けている
としており、最近の欧州の情勢によりマーケットのボラティリティが高まっていることを反映している。ここ1カ月程度のスパンでみれば、S&P500指数のボラティリティ・インデックスであるVIX指数は上向きになっている。この指標は金融市場の先行きに不透明感が生じ変動を予測した時に上がりやすいが、今回もそのような状況となっている。今後数週間以内に発表される金融ストレス指数などの指標も上昇していく可能性がある(これらとVIXの相関は高いが、ストレス指数の構成にVIXが含まれていることは留意)。以下はVIX指数の推移とVIXとセントルイス連銀金融ストレス指数の散布図である(出所:FRED/Economic Time Series Data Analyzer)。


今後Fedとしても欧州の金融情勢を中心に適時モニタリングを行い、米国の金融システムに波及し、実体経済へのスピルオーバーへのリスクが高まっていくことになれば、信用緩和としてクレジットスプレッドを低下させる措置を取りに行くものと考えられる。しかしそれは今すぐに、あるいは実現可能性が高いという話ではない。
■SEPと金利見通し
今回のFOMCではFOMC参加者(Fed理事及び各地区連銀総裁)による経済見通し(SEP)が公表された。以下はSEPで示された2014年までの各種経済指標の予測である(出所:Fed)。

実質GDPについては、2012年を上方修正、2013年及び2014年を下方修正している。各年の第4四半期の失業率予測については、2012年3月までに1月予測の下限である8.2%にまで低下したことから、2012年は7.8-8.0%に、2013年は7.3-7.7%に上方修正された。PCE価格指数については、総合指数は2012年第4四半期には前年比1.9-2.0%に、同2013年には前年比1.6-2.0%に上方修正、コアについても2012年第4四半期には1.8-2.0%に、2013年同には1.7-2.0%に、2014年同には1.8-2.0%に上方修正された。このことから失業率及び物価両面で前回の予測から上方修正を行ったということになる。
FOMC参加者の金利見通しについては、金利を引き締めに転ずるのが適切である時期について、2012年と考えているのは3名、2013年と考えているのは3名、2014年と考えているのは7名、2015年と考えているのは4名となった。前回、金利を引き締めに転ずるのが適切である時期について、2016年と考えている参加者が2名存在していた。しかし今回は、この2名が金利見通しを前倒しし、すべての参加者は2015年以前に金融引き締めに転じるのが適切であるという見解となった。さらに2014年と考える参加者が2名増加、2015年と考える参加者が2名増加したことにより、一部のハト派的な参加者4名が金利見通しの予測を前倒ししたということになる。但し、このメジアンは2014年であることから、フォワードガイダンスに示された時期と一応は整合する。以下は参加者の金利見通し(出所:Fed)。

この各参加者の金利見通しについて、どのような決まり方をするのか?ということについては、1月のFOMCのエントリでも触れたが、もう一度説明しておきたい。SEPにおける金利見通しの判断は、各参加者の見解に依存しているが、一応のルールは存在している。その一つがテイラールールである。これは生産量ギャップ(潜在生産量と実際もしくは予測の生産量との差)とインフレギャップ(インフレ目標値と実際もしくは予測のインフレ率の差)から求められる。潜在成長率についてFedは公表しておらず(議会予算局(Congressional Budget Office (CBO))が推計)、そして生産量と失業にはオークンの法則による関係があるため、生産量ギャップについては、自然失業率と実際もしくは予測の失業率との差(失業率ギャップ)に置き換えている。従って、インフレギャップと失業率ギャップから算出される。この点について、議長も会見で触れていたが、イエレン副議長は4月12日の講演で以下のように述べていた(Fed "The Economic Outlook and Monetary Policy" より)。
The policy prescriptions I've discussed thus far are conditioned on an illustrative baseline forecast for unemployment and inflation. Because any economic forecast is inherently uncertain, the FOMC's forward policy guidance states explicitly that the Committee "currently anticipates" that economic conditions are likely to warrant such a stance of policy. The guidance does not state that the Committee will keep the funds rate exceptionally low until at least late 2014. I'd consider it completely appropriate to modify the specification of the forward guidance in response to significant changes in the economic outlook.
私が議論した政策の処方箋は失業率とインフレの見通しを例示したベースラインが条件となっている。何故ならば、経済見通しは本質的に不確実であり、FOMCのフォワードガイダンスは、経済の状況がそのような政策のスタンスを保証することについて「現段階での予測」を明言することである。ガイダンスは、委員会がFF金利について少なくとも2014年後半まで異例なほど低い水準に据え置くということを明言してはいない。経済見通しの著しい変化に反応してフォワードガイダンスの変更を行うのは全くもって適切だと考えている。
Potential modifications of the forward guidance can be illustrated by showing how the Taylor (1999) rule responds to two different shifts in the outlook. Figure 9 shows one scenario in which the recovery turns out to be unexpectedly strong, with the unemployment rate reaching 6 percent by the end of 2014 and inflation moving a little above 2 percent later in the decade. It also shows a second scenario in which the recovery is unexpectedly weak, with the unemployment rate remaining above 8 percent until early 2014. In this scenario, inflation stays persistently below 2 percent. In the stronger scenario, the Taylor (1999) rule calls for the liftoff from the zero lower bound to move forward to the beginning of 2014. In that event, of course, the FOMC would not only raise the federal funds rate sooner than our current guidance suggests but would also begin to remove other forms of accommodation and draw down the balance sheet sooner than in the baseline. In contrast, in the weaker scenario, the Taylor (1999) rule calls for the liftoff to be delayed until the first half of 2016. The model's recommendation for a later liftoff in this scenario could alternatively provide an argument for additional policy accommodation through other means, including additional asset purchases.
フォワードガイダンスの潜在的な修正は、どのようにテイラールール(1999年)が見通しにおいて2つの異なった変化に反応しているかを表示することで図解されるだろう。図9は景気回復が著しく強くなるといった1つのシナリオであり、失業率は2014年の終わりに6%に達し、インフレ率は2%をやや上回って推移するというものである。景気回復が著しく弱いといった第2のシナリオも表示しており、失業率は2014年末まで8%を上回って推移するといったものである。このシナリオではインフレは永続的に2%を下回って推移する。強い回復のシナリオでは、テイラールール(1999年)は2014年のはじめにゼロ金利の解除を進めることを必要としている。このような場合、もちろんFOMCは現状のガイダンスが指摘している時期よりも早くFF金利を引き上げるだけでなく、ベースラインよりも早く他の緩和政策手段を取りやめ、バランスシートを正常化するだろう。対照的に、弱いシナリオにおいては、テイラールール(1999年)では2016年の第一四半期までゼロ金利政策の解除を引き伸ばすことを必要としている。このシナリオにおける遅めのゼロ金利解除という状況において、モデルのレコメンデーションでは、代わりに追加の資産購入を含む追加の金融緩和策の主張を行なっている。
The current economic outlook is associated with significant risks in both directions. In particular, we know that recoveries from financial crises are commonly prolonged, and I remain concerned that the headwinds that have been restraining the recovery could lead to a longer period of sluggish growth and high unemployment than is embodied in the consensus forecasts. One specific risk is that elevated uncertainty about prospective fiscal policy adjustments could weigh on the spending plans of households and businesses. In addition, it's conceivable that the European situation could deteriorate and prompt a significant increase in global financial market stress. Such developments would likely have substantial adverse effects on U.S. economic activity and inflation.
現状の経済見通しは両方向への強いリスクに関連付けられている。特に、我々は金融危機からの景気回復は一般的に長引くものとなっており、私は回復を抑制している逆風が、コンセンサス予想で具現化されているよりも長期間の景気の伸び悩みや高い失業率の状態が長引かせることを懸念し続けている。一つの特定のリスクというのは、将来的な財政政策の調整が家計や企業の支出の計画に重しとなることについて不確実性が高まっていることだ。さらに、欧州の状況が悪化すればグローバルにおける金融市場のストレスを高めることも考えられる。そのような状況では、米国の経済活動やインフレに基本的に悪影響を及ぼすだろうとみられる。
このようなことから、各参加者がSEPで示した経済見通しを基にテイラールールなどにより将来のFF金利予測を行なっているものと考えられる。ちなみにテイラールールからSEP経済見通しの各年第4四半期の失業率及びコアPCEデフレータの見通しのコアレンジの中央値からFF金利の予測を示すと以下の図のようになる。テイラールールのモデル式は1月のエントリ参照(出所:Fed、米労働省、米商務省)。

失業率及びコアPCEデフレータの見通しを上方修正したことから、2012年には実質FF金利はプラスに転じ、2013年末には0.5%、2014年末には1.3%となっている。これについてFOMC参加者の金利見通し(各年末のFF金利水準)と比較すると、2013年はやや高い結果となったが、2014年にはおおよそ平均値程度となっている。従って、現時点でこの経済見通しであれば将来の金利パスの傾向は妥当なところではないかと思われる。恐らくこうした見通しにより、ハト派メンバーの一部で金利予測の前倒しを行ったものと考えられる。
■今後の政策動向
今後の政策については、6月で現行のオペレーション・ツイストが終了することになっているが、終了後の政策については議長から特段のインプリケーションは行われなかった。基本的にフォワードガイダンスで示される時期の決定が政策の軸となっていく、すなわち時間軸効果を狙った金利アプローチによる政策が軸となっていくものと考えられる。例えばQE3のような追加の量的なアプローチによる緩和については、"very much on the table"(机上にある)としているが、これは声明文で示されたダウンサイドリスクの顕在化、つまり「グローバルな金融市場の緊張」が高まり、米国の実体経済にスピルオーバーし、経済活動が落ち込むときに行われるものであるとみられる。例えば市場の緊張が著しく高まり、クレジットスプレッド等に波及していくことになればMBSの買入を行う可能性もある。従前から述べているようにあくまでもこれは金融市場の動向次第だろうと思われる。現時点ではそういった状況ではないことから、しばらく金融市場の動向を見定めていくものと思われる。一方で循環的要因から景気が停滞するような場合には、経済見通しを下方修正した上でフォワードガイダンスの見直し(後ずれ)を行なっていくことも考えられる。この場合は低金利予測の長期化について市場の期待形成に働きかけるものとなろう。一方で経済見通しが今後上振れていくような場合にはフォワードガイダンスの前倒しもありうるものの、徒に金利市場のボラティリティを高めてしまう可能性があるため、リスクも大きい。但し、現在のインフレの状況がFedが予測しているようにテンポラリーなものではなく、パーマネントなものとなっていく可能性が今後高まれば、フォワードガイダンスを前倒しすることもありうる。こうした見方は、上記のイエレン副議長の講演内容に沿ったものだろうと思われる。従って当面の政策の方向性は"Wait And See"なのだろうとみられる。
【参考】
FF金利先物の推移(前回FOMC後と今回)

Fedバランスシート

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カテゴリ: 市場視点
タグ: 金融政策 Fed ZIRP 金利 FOMCFOMCステートメント〜"late 2014"を維持
Information received since the Federal Open Market Committee met in March suggests that the economy has been expanding moderately. Labor market conditions have improved in recent months; the unemployment rate has declined but remains elevated. Household spending and business fixed investment have continued to advance. Despite some signs of improvement, the housing sector remains depressed. Inflation has picked up somewhat, mainly reflecting higher prices of crude oil and gasoline. However, longer-term inflation expectations have remained stable.
3月の会合以降に入手した情報では、景気はゆるやかに拡大していることを示唆している。労働市場の状況はここ数ヶ月で改善しており、失業率は低下しているが、高止まりしたままである。家計支出や企業の固定物投資は前進し続けている。いくらか改善の兆候があるものの、住宅市場は低迷したままである。インフレはやや上向きになっており、主に原油やガソリン価格の高騰を反映している。しかし、長期的なインフレ期待は安定したままである。
Consistent with its statutory mandate, the Committee seeks to foster maximum employment and price stability. The Committee expects economic growth to remain moderate over coming quarters and then to pick up gradually. Consequently, the Committee anticipates that the unemployment rate will decline gradually toward levels that it judges to be consistent with its dual mandate. Strains in global financial markets continue to pose significant downside risks to the economic outlook. The increase in oil and gasoline prices earlier this year is expected to affect inflation only temporarily, and the Committee anticipates that subsequently inflation will run at or below the rate that it judges most consistent with its dual mandate.
法定任務に一致するよう、委員会は最大雇用の促進と物価安定を模索している。委員会は、経済成長がここ数四半期緩やかなものとなり、そして徐々に上向きになっていくと予測している。結論として、委員会は失業率がデュアルマンデートと一致すると判断した水準に徐々に低下していくだろうと予測している。グローバル金融市場の緊張は経済見通しに著しいダウンサイドリスクを提起し続けている。年初の原油やガソリン価格の上昇はインフレに一時的にしか影響を与えないと予測しており、委員会は基調的なインフレはデュアルマンデートに一致すると判断した水準か、もしくは下回ると予測している。
To support a stronger economic recovery and to help ensure that inflation, over time, is at the rate most consistent with its dual mandate, the Committee expects to maintain a highly accommodative stance for monetary policy. In particular, the Committee decided today to keep the target range for the federal funds rate at 0 to 1/4 percent and currently anticipates that economic conditions--including low rates of resource utilization and a subdued outlook for inflation over the medium run--are likely to warrant exceptionally low levels for the federal funds rate at least through late 2014.
より力強い景気回復をサポートし、時間と共にインフレがデュアルマンデートに一致する水準へと到達することを手助けするために、委員会は金融政策の高い緩和的なスタンスを維持するものと予測している。特に、委員会は本日FF金利のレンジを0-0.25%に据え置くことを決め、低い水準の資源活用や安定した中期的なインフレ見通しを含む経済状況は、FF金利を少なくとも2014年終盤まで異例なほど低い水準であることを正当化するだろうと予測している。
The Committee also decided to continue its program to extend the average maturity of its holdings of securities as announced in September. The Committee is maintaining its existing policies of reinvesting principal payments from its holdings of agency debt and agency mortgage-backed securities in agency mortgage-backed securities and of rolling over maturing Treasury securities at auction. The Committee will regularly review the size and composition of its securities holdings and is prepared to adjust those holdings as appropriate to promote a stronger economic recovery in a context of price stability.
委員会は、昨年9月に通知した証券保有の平均残存期間延長プログラムの継続も決定した。委員会は、保有しているエージェンシー債、エージェンシーMBSの償還資金の再投資を行い、満期を迎えた米国債を入札時にロールオーバーする既存の政策を維持する。委員会は、定期的に証券保有のサイズ及び構成を見直し、物価安定の文脈においてより力強い経済回復を促進するため適切なものとしてこれらの証券保有の調節を行う準備がある。
Voting for the FOMC monetary policy action were: Ben S. Bernanke, Chairman; William C. Dudley, Vice Chairman; Elizabeth A. Duke; Dennis P. Lockhart; Sandra Pianalto; Sarah Bloom Raskin; Daniel K. Tarullo; John C. Williams; and Janet L. Yellen. Voting against the action was Jeffrey M. Lacker, who does not anticipate that economic conditions are likely to warrant exceptionally low levels of the federal funds rate through late 2014.
FOMCの金融政策に賛成票を入れたのは、B.バーナンキ議長、W.ダドリー副委員長、E.デューク、D.ロックハート、S.ピアナルト、S.ラスキン、D.タルーロ、J.ウィリアムズ、J.イエレンの各委員。J.ラッカー委員は反対票を当時、経済状況は2014年の後半までFF金利を異例なほど低い水準に据え置くことを正当化するということを予測していない。
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タグ: 金融政策 Fed ZIRP 金利 FOMC3月米雇用統計〜雇用増加のモメンタム低下
非農業部門雇用者数 +12.0万人
民間部門雇用者数 +12.1万人
失業率(U-3) 8.2%
週間平均労働時間 34.5h
平均時間あたり賃金 23.39ドル
U-6失業率 14.5%
以下は各指標の推移である(出所:米労働省BLS)
(1)非農業部門雇用者数増減(単位:千人)と失業率の推移

(2)非農業部門雇用者数がリセッション前の水準を取り戻すまでの期間(WW2以降)

(3)民間雇用者数(単位:千人)の推移

(4)週次あたり平均賃金=時間あたり賃金*週間平均労働時間(単位:ドル)の推移

(5)27週以上の失業者数=長期失業者(単位:千人)の推移

(6)労働参加率(単位:%)の推移

■ESTABLISHMENT SURVEY(事業者調査)
・非農業部門雇用者数は12.0万人増加となり、市場予想の20.1万人程度を大きく下回り、ヘッドラインとしてはネガティブサプライズとなった。1月は27.5万人増加と前回発表の28.4万人増加から下方修正、2月は24.0万人増加と前回発表の22.7万人増加から上方修正となった。民間雇用者数は12.1万人増加に留まり、民間雇用の伸び悩みが示唆された内容となっている。
・製造業は、3.1万人増加となった。うち、鉱山・掘削業は1千人増加、建設は7千人減少、製造工業(Manufacturing)は3.7万人増加、うち耐久財は2.6万人増加、非耐久財は1.1万人増加となっている。建設は住居用、非住居用で雇用が減っている。製造工業については、輸送用機械が13.0万人増加となっており、米国内で需要が高い自動車に関しては好調な雇用をキープしている。非耐久財では食品や紙・紙製品、化学等で雇用が増加している。製造業の雇用モメンタムは2月から加速しており、製造工業で雇用を確保しようとする動きが続いていることが示唆されている。
・サービス業では、卸売業が4.1千人増加、小売業が3.38万人減少、運輸・倉庫業が2.8千人増加、情報が9千人減少、金融業が1.1万人増加、専門職・ビジネスサービスが3.1万人増加(うち人材派遣は7.5千人減少)、教育・福祉サービスが3.7万人増加、観光・接客業が3.7万人の増加となっている。特に、GMSを中心とした小売業で雇用削減の動きとなっており、これが3月の民間雇用の伸びを圧迫した可能性がある。またここ数カ月の雇用増を大きく牽引した人材派遣で雇用が減っていること(2月は5.49万人増加であった)も減っていることも圧迫している。またヘルスケア・ソーシャルアシスタンスについても2.61万人の伸びに留まっているなど、サービス業で雇用の伸び悩みが色濃く映しだされた結果だった。
・政府部門は1千人減少となった。連邦政府は変わらず、州政府では2千人増加、地方政府では3千人減少となっている。地方政府については、教育で2.7千人減少し、非教育で0.2千人の減少となっており、横ばいといった格好となっている。雇用増に転じるかは未知数ではあるものの、雇用削減のモメンタムが低下してきている。以下は地方政府の雇用者の推移である(出所:BLS)。

・非農業部門の週間平均労働時間は34.5時間、時間あたり平均賃金は23.39ドルとなった。2月に週間平均労働時間が34.6時間と上方修正されたことから、3月はわずかに減った格好となっている。そのため週間賃金についても2月の807.56ドルから806.96ドルに僅かながら減少している。以下は対前年同期比の時間あたり平均賃金の伸びである(出所:BLS)。

■HOUSEHOLD SURVEY(家計調査)
失業率は8.2(8.168)%となり、2月と比べて0.1ポイントの低下となった。

失業者が低下したのは、失業率を求める際の分母となる労働人口が16.4万人減少、分子となる失業者が13.3万人減少したことによる。そのため労働参加率は前月より0.1ポイント低下の63.8%となった。就業者についても3.1万人減少しており、非労働力人口が33.3万人増加したことを考えると、就業を諦め、労働市場から退出した人が大幅に増加したことが要因であろうとみられる。但し、性別及び年齢別の労働参加率をみると、男性は20歳以上で労働人口がやや増加しているものの、20歳以上の女性の労働参加率が59.3%と前月から0.3ポイント低下していることから、このうちの一部は育児休暇である可能性があることには留意したい。総じて3月の失業率低下については、労働市場からの退出が増加したという要因で低下した可能性が強いため、この点ではネガティブな失業率低下といえる。長期失業者(27週以上にわたって失業状態である人)は11.8万人減少の530.8万人となった。失業者全体に占める長期失業者の割合は42.5%となった。長期失業者は緩やかに低下しているものの、依然として歴史的に高い水準が続いているということが言える。
■3月雇用統計の評価とFedの動向
3月の雇用統計は概ねネガティブな評価が多いものと思われる。
ポジティブファクター:製造業で堅調な雇用増がみられたこと
ネガティブファクター:非農業部門雇用者数の増加が伸び悩んだこと、賃金の伸びが緩慢であること、労働参加率が低下したこと
特に、労働参加率が低下し、就業を諦めた人が労働市場から退出したことで、失業率が低下したというのはネガティブに受け止められる。2010年代以降に生産年齢人口が大きく減少していく日本であれば、今後労働参加率の低下に拍車がかかるというのは仕方がないという側面もある。しかし、米国では緩やかながらも生産年齢人口は伸びているため、労働人口が減少してしまうのは労働市場の判断としてマイナスとなるものと考えられる。以下は米国の生産年齢人口の推移である(出所:FRED)。

リセッション後の回復過程において、経済成長率以上に雇用の回復(失業率の低下)が著しいということについて、現在様々な所で議論されている。3月27日にはバーナンキ議長は"Recent Developments in the Labor Market"という講演を行っており、関心が高まってきている。オークンの法則通りであれば、潜在成長率以上の成長がなければ失業率は低下していかず、例えば年間に1%失業率低下するのには4%の成長率が必要であるということである(議長講演より)。以下は2000年以降の毎四半期の実質GDP成長率と失業率の関係をグラフにしたものである(出所:Fed)。

特に2011年は線形からの乖離が大きくなっている。これは成長率以上に失業率が大きく低下したことを示しているが、これが何故もたらされているのか?というのが議長の言うところの「労働市場のパズル」ということである。この要因について、議長はいくつかの説を取り上げ、(1)現状見積もられているGDP成長率が上方修正されさらに速い成長を遂げていたという可能性、(2)失業率の低下が誇張されている可能性、(3)2008-09年の雇用削減がGDPのマイナス成長よりもあまりに大きかったためその反動増となっている可能性である(すなわち上記のグラフの2009年についても線形から大きく乖離しておりオークンの法則では説明できない雇用削減があった、ということである)。この中で、(2)の可能性について、議長は以下のように語っている。
Another logical possibility is that the decline in the unemployment rate could be overstating the improvement in the job market. For example, potential workers could be giving up on looking for work to an unusual extent. Because a person has to be either working or looking for work to be counted as part of the labor force, an increase in the number of people too discouraged to continue their search for work would reduce the unemployment rate, all else being equal--but not for a positive reason. A story centered on potential workers dropping out of the labor force might seem in line with the low level of the labor force participation rate. But other data cast doubt on that idea. For example, a broad measure of labor underutilization that includes people only marginally attached to the labor force has declined about in line with the unemployment rate since late 2010 . On balance, an assessment of a broad range of indicators suggests that a substantial portion of the decline in the unemployment rate does reflect genuine improvement in labor market conditions.
もう一つのロジカルな可能性として、失業率の減少が労働市場の改善を誇張したのではないかということである。例えば、潜在的な労働者はあまりに職を探す期間が長いため、職探しを諦めたかもしれないということだ。なぜならば、職を持っているか、職探しをしている人は労働力と見做され、あまりにも職探しがうまく行かないのでがっかりしたので、職探しを続けられない人が増加することは、他のすべてが等しければ失業率を低下させるが、ポジティブな理由ではない。労働力からドロップアウトした潜在的な労働者が中心となった話は、労働参加率の低い水準からみてとれる。しかし、他の指標ではこの考えに異議を唱えている。例えば、人々を限界的に労働力に接続させている労働力未活用割合といった指標は2010年以降失業率の低下に沿うように減ってきている。総じて幅広い指標の評価では、失業率の低下のかなりの部分は労働市場の状況において真の改善を反映させたものである。
すなわち、米国の労働市場の改善は様々な指標から確認できるものの、一方で労働市場の退出によるものであるという要因があり、今回の雇用統計における失業率の低下については上記の見方を補強するものであり、そういった意味でややネガティブなものであったといえる。そして、議長の講演において最も主張したかったことは、長期失業の弊害である。つまり、講演原稿を要約すると、次の通りである。
長期失業を経験した家計の半数以上は、費用を賄うため貯蓄や退職年金から資金を引き出し、半数は家族や友人から借金をし、3分の1は住宅費を工面するのに苦労させられている。また、長期失業は人々の健康にも悪影響を与え、調査によれば、失業者は、うつ病や脳卒中、心筋梗塞といったストレスに関連した疾患に対して高い疾病率となっている。また社会的なコストも大きく、高止まりする失業は、税収をなくし、雇用保険の増加や家族支援の他の支出の増大により公的なファイナンスを圧迫する。また技能の喪失は長期的に経済全体の生産余力を低下させる。
このことから、長期失業が彼らのスキルが奪われ、雇用のミスマッチを生み、労働力への執着を萎縮させ(labor force attachment atrophy further)、長期失業が構造的な要因に転換してしまうという結論を述べている。従って、今回の失業率低下が、長期失業の結果労働市場から退出する人が増加したという文脈で捉えられるとすれば、明らかにネガティブだろうと思われる。そしてリセッション期間中長期失業が増加したのは循環的要因、すなわち総需要の不足であるという見方を示していること(I also discussed long-term unemployment today, arguing that cyclical rather than structural factors are likely the primary source of its substantial increase during the recession.)からすれば、失業率がこの段階で減少したからといって、緩和的な金融政策を拙速に転換させることは出来ないものと考えられる。
このことから、4月のFOMCにおいて、こうした議長の見方が執行部主流派の見方であるとすれば、金利パスを前倒しするFOMC参加者(数人は前倒しするものと考えられるが)は、中間派を中心にそれ程多く出るわけではなく、それ故フォワードガイダンスの前倒しには躊躇するものと考えられる。但し、(金利パスを前倒しさせる可能性がある)タカ派を中心として物価に軸足をおいた政策を求める参加者や景気認識について強気な参加者との間での相違は色濃く出てくるものと考えられる。
さらに、今回の雇用増加のモメンタムが低下したことは、3月のFOMC議事要旨で一部の参加者が留意していたことでもあった。
While recent employment data had been encouraging, a number of members perceived a nonnegligible risk that improvements in employment could diminish as the year progressed, as had occurred in 2010 and 2011, and saw this risk as reinforcing the case for leaving the forward guidance unchanged at this meeting.
最近の雇用の指標は勇気づけられる一方で、数人のメンバーは、2010年や2011年に起こったように、雇用の改善が、年が経つに連れ減衰する可能性といった無視できないリスクについて表明し、今回の会合でフォワードガイダンスを据え置くことを補強するものとしてこのリスクを捉えていた。
としていることから、2010年や2011年の年央に雇用が伸び悩んだことと同じようなリスクがあるのではないかとみていたことが分かった。今回の雇用統計において、非農業部門雇用者数の増加が12万人に留まったというのは、早くもそういったリスクが顕在化している可能性があり、今後数カ月の雇用の趨勢を待ってみる必要はあるものの、フォワードガイダンスを据え置くことが適当であるとする考えを強化するようなものであったといえる。
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タグ: マクロ 米国 雇用統計 Fed







