1月雇用統計:順調な雇用拡大
非農業部門雇用者数 +15.7万人
失業率(U-3) 7.9%
民間部門雇用者数 +16.6万人
週間平均労働時間 34.4h
平均時間あたり賃金 23.78ドル
U-6失業率 14.4%
(1)非農業部門雇用者数増減(単位:千人)と失業率の推移

(2)非農業部門雇用者数がリセッション前の水準を取り戻すまでの期間(WW2以降)

(3)民間雇用者数(単位:千人)の推移

(4)週次あたり平均賃金=時間あたり賃金*週間平均労働時間(単位:ドル)の推移

(5)27週以上の失業者数=長期失業者(単位:千人)の推移

(6)労働参加率(単位:%)の推移

(7)労働投入量(前年同期比%)の推移

■ESTABLISHMENT SURVEY(事業者調査)
・非農業部門雇用者数は、15.7万人増加となり、市場予想にはやや届かなかったものの、着実な雇用増が確認できている。民間雇用者数は16.6万人増加となっている。11月は二次速報16.1万人から24.7万人に、12月は速報15.5万人から19.6万人にそれぞれ上方修正されている。上方修正の要因としては、運輸・倉庫業で大幅な上方修正がみられている。事業者調査は下記にもあるように、年次ベンチマーク処理と季節調整の改訂という処理が行われており、2012年の非農業部門雇用者数は全般的に上方修正されている。この影響から11月、12月は雇用者が大幅に上方修正されている。以下は2012年の修正前と修正後の非農業部門雇用者数増減の推移である(米労働省BLSのデータより作成)

・製造業は3.6万人の増加となった。内訳は、鉱業・掘削業で4千人増加、建設で2.8万人増加、製造工業で3千人増加となっている。製造業のうち、耐久財が3千人増加(うち自動車及び部品は2.5千人増加)、非耐久財が1千人増加となった。建設はハリケーン・サンディの復興需要などを反映して雇用増が続いている。また住宅市況の改善も反映しているものと考えられる。製造工業は大きな増減はみられていない。
・非製造業は13.0万人の増加となった。内訳は、卸売業が1.48万人の増加、小売業が3.26万人の増加、運輸・倉庫業が1.42万人減少、情報が9千人増加、金融取引が6千人増加、専門・ビジネスサービス業が2.5万人増加(うち人材派遣が8.1千人の減少)、教育・ヘルスケア業が2.5万人増加、観光・接客業が2.3万人の増加となっている。但し、クリスマス商戦後の小売業は季節調整前の数字では大きく減少しており(所謂反動減の構図となっている)、実際は3.2万人増加ほど雇用が拡大したというものではないことには留意が必要である。以下は季節調整前の小売業の雇用増減の推移である(出所:米労働省BSL)。

・政府部門は9千人の減少となった。内訳は、連邦政府が5千人減少、州政府が2千人増加、地方政府が6千人減少となっている。地方政府については一時期雇用削減圧力が緩和されていたが、足元では雇用削減圧力が掛かってきている。また、Fiscal Cliffは回避された(=ドラスティックな財政赤字削減圧力となる)ものの、2013年は連邦政府を中心に財政赤字削減圧力が掛かることから今後も雇用を拡大していけるセクターとはなり辛い。そのため、民間主体の雇用の回復となっていくものと思われる。
・民間部門の週間平均労働時間は34.4時間となり、前月から変わらず。時間あたり平均賃金は23.78ドルとなり、前月から0.04ドルの微増となった。これにより、週間あたり平均賃金は前月から1.37ドル増加の818.03ドルとなった。賃金については小幅な伸びに留まっていることから、インフレ圧力とはなりづらく、また労働市場がタイトという状況からは程遠いことが示唆されている。
■HOUSEHOLD SURVEY(家計調査)
失業率は7.9(7.9227)%となり、前月から0.1ポイント上昇した。

なお、1月の雇用統計では以下のような人口推計の更新が行われている。
Establishment survey data have been revised as a result of the annual benchmarking process and the updating of seasonal adjustment factors. Also, household survey data for January 2013 reflect updated population estimates.
事業者調査のデータは年次ベンチマーク処理と季節調整要因の改訂の結果、修正された。同時に2013年1月の家計調査のデータは人口推計の更新を反映している。
このため、各指標の前月比較が行われておらず、従って労働参加率や就業者比率など単純比較することは出来ない。従って、前月比較を行う場合には、参考ながら"December 2012-January 2013 changes in selected labor force measures, with adjustments for population control effects"(人口調整の影響を調整した選択的労働力指標における2012年12月から2013年1月の変化)のうち、Dec.-Jan. change after removing the population control effect(人口調整の影響を取り除いた後の12-1月の変化)を見ていく必要がある。以下の表はヘッドラインの増減、増減のうち人口調整の影響、人口調整の影響を取り除いた増減である。

それによると、労働人口は前月から7千人増加、就業者は11万人減少、失業者は11.7万人増加、非労働力人口は16.7万人増加となった。従って、失業率の上昇は単純に就業者が減少し失業者が増加したから、という可能性が濃厚であり、ネガティブな失業率増加と言ってもよいものと思われる。また、就業者数はあくまでも家計調査(家計調査には農業や自営業も含まれる)のものであり、事業者調査である非農業部門雇用者数増減とは異なる統計であることにも留意する必要がある。長期的には両者は高い相関にあるが、月単位では振れることもある。長期失業者(27週間以上失業状態にある人)は470.8万人となっており、失業者全体の38.1%となっている。
■雇用統計の評価と今後のポイント
1月の雇用統計をまとめると、ポジティブファクター及びネガティブファクターは、以下の通りである。
ポジティブファクター
・民間雇用が拡大している
ネガティブファクター
・ネガティブな形での失業率上昇
・公的部門の雇用削減圧力が続いている
このようなところとなろう。着実な雇用回復は続いているものの、失業率を低下させるだけの勢いには欠けるものとなっている。しかし、今後も継続して20万人程度の雇用拡大が見込めれば失業率は低下していくものとみられ、雇用環境の改善につながっていくものと思われる。但し、公的部門についてはFiscal Cliffこそ回避したものの引き続き財政赤字削減圧力が加わることから雇用増加は見込みにくい。従って2013年も引き続き民間雇用がどの程度回復していくかが焦点となってこよう。雇用を含めた米国経済の先行きのダウンサイド要因は米財政問題であり、アップサイド要因は住宅市場と思われる。米国財政問題については、Fiscal Cliffにしても債務上限引き上げ問題にしても、結局のところ問題の先送りであり、いずれ議会交渉の行方に注目が集まるものと思われる。交渉の行方次第では再び消費者や企業の信頼感の低下に繋がっていく可能性もある。住宅市場については、2013年は住宅市場が本格的に回復していけるかが焦点となり、回復軌道に乗っていることが鮮明となれば景気回復のエンジンとなっていく可能性もある。2012年第3四半期以降、住宅投資はGDPをプラスに牽引する形となっており、今後の景気回復のメインドライバーとなっていけるかが焦点となろう。これまで失業率が高かった建設等で改善していけば本格的な雇用回復というシナリオもあり得る。そのような状況で、1月のFOMCでは現状維持となったが、オープンエンドの資産買入については、少なくとも年内は現状の買入ペースをキープしていくものとみられるものの、例えば住宅市場の回復などの要因で、雇用回復が加速していくのであれば、買入ペースを減額していくという論議につながりやすくなっていくものと思われる。
カテゴリ: 市場視点
タグ: マクロ 米国 雇用統計12月雇用統計~雇用は着実に増加
非農業部門雇用者数 +15.5万人
失業率(U-3) 7.8%
民間部門雇用者数 +14.7万人
週間平均労働時間 34.5h
平均時間あたり賃金 23.73ドル
U-6失業率 14.4%
(1)非農業部門雇用者数増減(単位:千人)と失業率の推移

(2)非農業部門雇用者数がリセッション前の水準を取り戻すまでの期間(WW2以降)

(3)民間雇用者数(単位:千人)の推移

(4)週次あたり平均賃金=時間あたり賃金*週間平均労働時間(単位:ドル)の推移

(5)27週以上の失業者数=長期失業者(単位:千人)の推移

(6)労働参加率(単位:%)の推移

(7)労働投入量(前年同期比%)の推移

■ESTABLISHMENT SURVEY(事業者調査)
・12月の非農業部門雇用者数は、15.5万人の増加となり、市場予想の16万人からはやや下回る内容となった。10月確報は13.8万人増加から13.7万人増加に下方修正、11月二次速報は14.6万人から16.1万人に上方修正された。11月上方修正の要因は小売業で速報値5.26万人増加から6.28万人増加となったことなどが要因である。
・製造業は、5.9万人の増加となり、11月から一転して雇用増となった。内訳は、鉱業・掘削業が4千人増加、建設が3万人増加、製造工業が2.5万人増加となった。製造工業のうち、耐久財は1.1万人増加、非耐久財は1.4万人の増加となった。耐久財のうち、自動車・部品は4.8千人の増加となった。建設業で大幅に雇用が増加した要因としては、ハリケーン・サンディからの復旧・復興需要が高まったためと考えられる。製造工業については、世界経済が回復基調に向かいつつある状況や、堅調な北米の自動車需要を反映したものと思われる。
・非製造業は10.9万人の増加となった。内訳は、卸売で0.1千人減少、小売で1.13万人減少、運輸・倉庫業で0.6千人減少、情報で9千人減少、金融取引業で9千人増加、専門職及びビジネスサービス業で1.9万人増加(うち人材派遣は0.6千人減少)、教育・ヘルスケアで6.5万人増加、観光・接客業で3.1万人増加したことによる。教育・ヘルスケア業では外来医療サービスで1.17万人増加となっているのをはじめ、社会扶助(Social assistance)で1.05万人増加となっており、このセクターが雇用を確実に押し上げていることが示唆されている。また観光・接客業では、飲食サービスが3.8万人増加となっており、安定的に雇用の受け皿となっている。なお、小売業は季節調整済みで1.13万人減少であるが、季節調整前は8.8万人増加となっている。11月に例年以上に積極的な採用を行ったことから、その反動から採用を抑制したものと思われる。また、10-12月に小売業の雇用が大きく伸びるのはホリデーショッピングシーズンの臨時採用が行われたためであり、今後2013年1-2月に反動減が想定される。以下は季節調整前の10-2月の小売業の雇用増減の推移である(出所:米労働省BLS)。

・政府部門は1.3万人の減少となった。内訳は、連邦政府で3千人減少、州政府で4千人増加、地方政府で1.4万人の減少となっている。財政年度が変わることや、連邦政府ではFiscal Cliffを睨んで採用を抑制したことなどが背景にあるものとみられる。地方政府については、雇用削減圧力が弱まったとはいえ、未だに厳しい財政状況に直面しており、雇用増に転じるまではまだ道が険しいことが示唆されている。しかし、Fiscal Cliffを回避したことから、懸念されていた政府部門で大幅な人員削減圧力が加わる可能性は低くなったといえる。
・民間部門の週間平均労働時間は34.5時間となり、前月から0.1時間拡大した。時間あたりの賃金は23.37ドルとなり、前月から0.7ドルの増加となった。このことから、週間あたり平均賃金は前月から4.79ドル増加の818.69ドルとなった。また、民間部門の労働投入量は前年同期比2.0%の伸びとなった。週間平均労働時間が拡大したことから、労働投入量が押し上げられ、労働需給がややタイト化したことが示唆されており、また賃金の伸びも加速したことから、労働者の購買力の拡大につながっていくものと思われる。
■HOUSEHOLD SURVEY(家計調査)
・失業率は7.8(7.848962)%となり、前月と変わらずとなった。

・失業率を算出する際の分母となる労働人口は前月から19.2万人増加(労働参加率は前月と変わらずの63.6%)、一方で失業者は16.4万人増加となっている。就業者は2.8万人増加(就業者比率は58.6%と前月から0.1ポイント低下)、非労働力人口は1.6万人減少となっている。このことから、景気回復にともなって労働市場に再参入する人が増加したことが示唆されている。失業要因のうち、失職及び雇用期間完了が2.1万人減少、離職が5.7万人増加、リエントリが26.2万人増加、新規エントリが3.5万人減少であることからも、12月に労働市場に再参入した人が多くなったことを裏付けている。労働参加率は横ばいながらも、減少には歯止めが掛かった状況である。また、経済的事由によりパートタイマーとなった人は22.0万人減少し、U-6失業率は14.4%となった。27週以上失業状態となっている長期失業者は前月から1.8万人減少の476.6万人となった。失業者全体に占める長期失業者の割合は、39.1%となり40%台を割り込んだ。
・なお、12月の雇用統計では、家計調査において、季節調整要因のアップデートが行われたため、リバイスが行われている。リバイスの対象は2012年である。以下はリバイス前とリバイス後の失業率の推移である(出所:米労働省BLS)。

■雇用統計の評価と今後のポイント
12月の雇用統計をまとめると、ポジティブファクターは、以下の通りである。
・製造業雇用が増加に転じたこと
・週間平均労働時間が上昇したこと、それにより労働投入量及び平均賃金が増加したこと
・労働市場に再参入する労働者が増加したこと
ネガティブファクターは特には見当たらない。このことから、ヘッドライン以上に内容は良好だったのではないかと思われる。しかし、雇用の伸びは着実であってもペースが一段と加速するというところには至っておらず、景気回復が依然として緩慢な状況であったともいえる。しかし、Fiscal Cliffが回避され企業や家計の信頼感が回復し、世界経済が着実な回復基調に転じていく中で、米国の労働市場も今後は改善ペースをやや加速していく可能性もある。先日12月のFOMC議事要旨が公表され、Fed内部でも労働市場の状況は予測よりも改善しているという見方が示されていた。
In discussing labor market developments, participants generally viewed the recent data as having been somewhat better than expected, with moderate gains in payroll employment and a decline in the unemployment rate.
労働市場の進展の議論において、参加者は総じて、緩やかな就業者数の増加や失業率の低下が伴った直近のデータは予測されていたよりもやや良好であると見ていた。
12月の雇用統計でも、失業率こそ低下はしていないが、雇用の伸びは着実であったことから、上記のような見方を補強するものとなるものとみられる。FOMC議事要旨では、少数のメンバー(投票権を有する参加者)から、
In considering the outlook for the labor market and the broader economy, a few members expressed the view that ongoing asset purchases would likely be warranted until about the end of 2013
労働市場や広範囲な経済の見通しを考えるにあたり、少数のメンバーは継続している資産購入はおよそ2013年末まで正当化される可能性が高いという見方を示した。
とあり、現在850億ドルのペースで買いを進めている資産購入は現時点での雇用改善ペースが今後1年継続的に進むか、もしくは改善ペースが継続的に加速するのであれば、資産購入の終了時期を巡る論議がFed内外で今後高まっていく可能性が強いものと考えられる。例えば、FOMC参加者による2013年終盤の失業率予測の中心レンジは7.4-7.7%であるが、仮に短期間、例えば今後数カ月以内にこの水準を下回る場合、資産買入の終了時期についての思惑を強める可能性がある。今後、資産買入の終了時期及び条件を巡り、金利市場を中心に雇用統計などの感応度は一層高まっていく可能性も考えられる。
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12月5日に拙著"Global Macro Outlook 2013 :Where is driver for growth?「成長ドライバーが見えない展開へ」"がAmazon Kindleストアから発売されました。
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タグ: マクロ 米国 雇用統計 Fed FiscalCliff新著 "Global Macro Outlook 2013 :Where is driver for growth?「成長ドライバーが見えない展開へ」"のご案内
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内容紹介
2012年の経済を振り返ると、先進国経済は2009年のリセッション以降立ち直りを見せたものの、欧州債務問題と緊縮財政の影響により欧州経済は再度リセッション入りの展開となった。米国経済は家計のバランスシート調整が続き、回復のモメンタム上にあるものの、緩慢な成長率に留まっている。一方、金融危機後の世界経済をリードしてきた新興国にも成長の陰りが見え隠れしている。そのような中で各国経済の現状と2013年の見通しについて以下のような解説を行う。
米国経済:家計のバランスシート調整問題、Fiscal Cliff(財政の崖)と米財政問題、個人消費、住宅市場、資金循環、雇用、価格・インフレ動向、FEDの動向
欧州経済:周縁国財政再建の動向、リセッションに陥るユーロ圏経済、ユーロ圏の金融状況、ECBの動向
日本経済:現状の日本経済の動向と2013年の見通し、長期的な問題、日銀の動向
新興国経済:中国経済(現状と2013年の見通し、ルイスの転換点・人口ボーナスと人口オーナス・中進国の壁)、インド経済、先進国と新興国との間の資金循環
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タグ: 新著のご案内日銀短観~製造業の景況感悪化
大企業製造業業況判断DIと同非製造業業況判断DIの推移(2013年3月は先行きDI、出所:日銀)

大企業製造業業況判断の先行きDIは-10となり、円安への期待などを背景に12月から2ポイントの改善を見込んでいるものの、少なくとも2013年の第1四半期までは景気の低迷を示唆している格好となっている。同非製造業業況判断先行きDIは3となり、1ポイントの低下を見込んでいるが、依然としてプラス圏内であり、製造業と比較すると相対的に底堅さも意識される。大企業製造業の業種別では、自動車の業況判断が9月から28ポイント低下して-9となっている。これは、エコカー減税の打ち切りの反動により国内需要が低迷していることや、やや過剰在庫感も意識され、さらに中国の日本製品不買運動などの影響、エマージングや欧州需要の低迷などを反映しているものと思われる。自動車の先行きは-16となっており、12月からさらに7ポイントの悪化を見込んでいることから、先行きについてもさらに厳しさが増していくといった状況となっている。またエマージング需要を取り込む業務用機械も9月の6から17ポイント低下の-11、造船・重機等も9月の-14から-25にそれぞれ悪化している。中堅企業の業況判断現状DIは-12となり、前回から6ポイント低下、先行きも-20となっており、さらに中小企業の業況判断現状DIは-18となっており、先行きは-26まで低下していることから、規模が小さくなるほど事業環境が悪化しやすくなっている。非製造業の業種別では、対事業所サービスや宿泊・飲食サービスで9月と比較して景況感が低下している。一方で不動産業は9月から5ポイント改善している。また、通信業は相変わらず好況であり、スマートフォンなどの需要に支えられている。
・需給・在庫・価格判断
国内での製商品・サービス需給判断DIでは、大企業製造業で-25となっており、前回から7ポイント低下した。景気後退に入りつつある中、エコカー減税などの反動により個人消費も息切れしてきている状況で、国内の需要も落ち込んできている。しかし、先行きは1ポイント改善を見込んでおり、現状がボトム圏にあることを示唆している。海外での製商品需給判断DIは、9月から4ポイント低下の-17となっている。エマージング諸国の景気減速や、欧州の景気後退の影響などから、需要の落ち込みが顕著となっている。しかし、先行きは2ポイント改善すると見込まれており、新興国経済の立ち直りに期待を寄せているものと思われる。海外需要については、仮に米国でFiscal Cliffが発動され同国経済がリセッションに陥ってしまうことになれば、ここからさらに悪化してしまうというリスクもある。このため、先行きについても現時点では楽観的ではなく、慎重な見方を崩していないものと思われる。
国内での製商品・サービス需給判断DIと海外製商品需給判断DIの推移(出所:日銀)

製商品在庫水準DIの推移(出所:日銀)

仕入価格DIと販売価格DIの推移(出所:日銀)

製商品在庫水準DIは大企業製造業で21となっており、前回から3ポイント上昇した(=在庫過大感が増した)。鉱工業在庫指数をみても現状は過剰在庫であるとみられ、今後生産調整や在庫調整が必要であることが示唆されており、それを短観でも裏付けるものとなった。今後在庫が適正水準に戻るのは、1-2四半期の時間を要するものと思われる。販売価格DIは大企業製造業で前回から2ポイント低下の-18となっている。需要低下により販売価格にも下方バイアスが掛かってきている。一方で仕入価格DIは-1と前回から3ポイント低下しており、コストが上昇していないという状況はまだ好ましいのだろうと思われる。一方で先行きは大企業の仕入価格で4となっており、電気料金引き上げや円安による原材料費上昇を見越した形となっているものとみられる。
・売上高・経常利益・想定為替レート・設備投資計画・雇用
2012年度の売上高計画は製造業で前年度比1.2%増となっており、前回調査から2ポイント下方修正となった。欧州経済が低迷し、エマージング諸国の景気減速の影響を受け、さらには中国の日本製品不買運動の影響によりトップラインから下方修正を余儀なくされている。非製造業は前年度比1.0%増となっており、前回から0.6ポイントの下方修正となっている。2012年度の経常利益計画においては、大企業製造業で前年度比3.5%減となっており、前回調査から6.4ポイント下方修正していることから、2012年度は一転減益となる公算であり、企業の収益環境が一気に悪化していることを示唆している。一方で非製造業は前年度比1.3%減となっており、前回から1.0ポイントの上方修正となっている。このようなことから、全規模合計で前回調査から1.9ポイント低下の前年度比1.1%減益となっている。
想定為替レートは、2012年度通期で78.90円、上期で79.09円、下期で78.73円となっている。回答期間が11月13日から12月13日となっているが、この期間は経常収支が悪化し、自民党安倍総裁の発言等から円安に振れていたものの、この円安が持続的ではないとの見方があったのだろうか、企業サイドからは慎重な見方が示されていた。しかし、80円を超えた水準が継続すれば輸出企業の潜在的な増益要因となりうる。しかし、貿易赤字が定着化しており、更なる円安に振れることになれば、電力料金や燃料コストにも跳ね返ってくることから、コスト増が大きく意識されやすくなる。
設備投資額(含む土地投資額)は、大企業製造業で前回調査から1.1ポイント下方修正の前年度比11.1%増となった。震災復興需要などで設備復旧の動きがあり、また生産設備を増強させる動きとなっているが、足元の世界経済の停滞などの影響から設備投資を先送りさせる動きも出ている。一方で大企業非製造業の設備投資額は前年度比4.6%増となっており、相対的に堅調さが目立っている。このことから大企業全産業の設備投資額は前年度比6.8%増となっており、前回から0.4ポイント上方修正されている。生産・営業用設備判断DIは大企業製造業で14となっており、前回から3ポイント上昇(設備過剰感が増した)した。既に設備稼働率は2012年3月をピークに低下しており、余剰設備への懸念が出てきており、さらに先行きの需要見通しにも不確実性が大きいことから、生産設備増強の先送り懸念を示唆しているものとなっている。
生産・営業用設備判断DIの推移(出所:日銀)

雇用人員判断DIは大企業で4となり、前回調査から2ポイント上昇(=人員過剰感が増大)となった。足元で在庫調整に伴う生産調整のフェーズに入っており、余剰人員が発生していることが示唆されている。今後は大企業を中心に雇用環境も厳しさを増していくものと思われる。一方で中堅企業は前回から2ポイント低下(=人員不足感が増大)の-1となっている。2011年後半以降の傾向として、大企業よりも中堅・中小企業の雇用人員不足感は大きくなっていることから、所謂ベビーブーマー層の大量退職により確保するのが難しい技能職を中心に恒常的に人員不足となっているものと思われる。
大企業全産業の雇用人員判断DIの推移(出所:日銀)

規模別の雇用人員判断DIの推移(出所:日銀)

緑色:大企業 紺色:中堅企業 水色:中小企業
・企業金融・資金繰り
資金繰り判断DI(楽である-苦しい)は大企業で前回調査から1ポイント上昇の16となり、大企業の資金繰りについては安定していることが示唆されている。中堅企業は10となり、前回から1ポイント低下、中小企業は-5となり、前回から1ポイント低下となっている。今後は2013年3月に中小企業金融円滑化法が終了することにより、中小企業の資金繰り悪化が懸念されるところである。支援の方針は変わらないものの、ハードランディングとなると企業倒産が多発する可能性もあり、政策的バックアップが要求されるものとみられる。金融機関の貸出態度判断DIは大企業で前回調査から1ポイント低下の16、中堅企業は前回調査と変わらずの15、中小企業は前回調査から1ポイント低下の3となっている。借入金利水準判断(上昇-低下)DIは、大企業で前回調査から1ポイント低下の-6、中堅企業で前回調査から1ポイント低下の-8、中小企業で前回調査と変わらずの-7となっている。日銀の金融緩和や、足元でベンチマーク金利が低下してきていることから、借入金利についても低下基調が続いている。CP発行環境判断DIは大企業で2となっており、前回と変わらず、安定している。
今回の短観は、日本経済とりわけ製造業のマインドが大きく悪化したことが裏付けられたものとなっている。前回調査では完全に織り込めていなかった中国リスクについても反映されており、輸出企業を中心に逆風が強まっていることが示唆されている。但し、3月に向けてはやや明るさも持っていることから、当面年末から1月にかけて景況感のボトムアウトを探る時期であろうと思われる。しかし、米国Fiscal Cliffの行方は大きな不確実性要因であり、仮に発動となれば国内輸出企業の景況感をさらに悪化させるリスクもある。また、2013年も引き続き欧州経済はリセッションが続き、新興国経済の立ち上がりが遅れることもリスク要因として意識される。一方、堅調な個人消費に支えられてきた非製造業についてもモメンタムの低下が見られており、今後の動向には注意が必要である。設備投資額は2桁増を維持したものの、設備判断DIは悪化しており、設備投資の先送りもリスク要因として意識される。このような状況において、12月の日銀金融政策決定会合では景気を下支えする目的として追加緩和が行われる公算が強まっているといえる。
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タグ: BOJ 短観 日本 マクロFOMCステートメント~月当たり450億ドルの米国債の追加購入とコミュニケーションポリシーの変更を決定
Information received since the Federal Open Market Committee met in October suggests that economic activity and employment have continued to expand at a moderate pace in recent months, apart from weather-related disruptions. Although the unemployment rate has declined somewhat since the summer, it remains elevated. Household spending has continued to advance, and the housing sector has shown further signs of improvement, but growth in business fixed investment has slowed. Inflation has been running somewhat below the Committee’s longer-run objective, apart from temporary variations that largely reflect fluctuations in energy prices. Longer-term inflation expectations have remained stable.
10月のFOMC会合後に入手した情報では、天候に関連した災害を除いては、ここ数ヶ月で経済活動や雇用は緩やかなペースで拡大し続けていたことを示唆している。しかしながら失業率は夏以降低下しているものの、高止まりしている。家計消費支出は前進し続けており、住宅セクターはさらなる改善のサインが出ているように思われるが、企業の固定物投資は鈍化した。エネルギー価格の変動を反映した一時的な要因を除いては、インフレは委員会の長期的な目標をやや下回って推移した。長期的なインフレ期待は安定的に推移している。
Consistent with its statutory mandate, the Committee seeks to foster maximum employment and price stability. The Committee remains concerned that, without sufficient policy accommodation, economic growth might not be strong enough to generate sustained improvement in labor market conditions. Furthermore, strains in global financial markets continue to pose significant downside risks to the economic outlook. The Committee also anticipates that inflation over the medium term likely will run at or below its 2 percent objective.
法定任務と一致するために、委員会は最大雇用と物価安定の促進を模索している。委員会は、十分な緩和政策なしに、経済成長が労働市場の状況について持続的な改善をもたらすのに十分なほど力強くないことについて懸念している。さらにグローバルな金融市場の緊張が経済見通しに著しいダウンサイドリスクを想起させている。委員会は中期的にインフレは目的である2%に沿うかもしくは下回って推移する可能性が高いと予測する
To support a stronger economic recovery and to help ensure that inflation, over time, is at the rate most consistent with its dual mandate, the Committee will continue purchasing additional agency mortgage-backed securities at a pace of $40 billion per month. The Committee also will purchase longer-term Treasury securities after its program to extend the average maturity of its holdings of Treasury securities is completed at the end of the year, initially at a pace of $45 billion per month. The Committee is maintaining its existing policy of reinvesting principal payments from its holdings of agency debt and agency mortgage-backed securities in agency mortgage-backed securities and, in January, will resume rolling over maturing Treasury securities at auction. Taken together, these actions should maintain downward pressure on longer-term interest rates, support mortgage markets, and help to make broader financial conditions more accommodative.
力強い景気回復をサポートし、インフレが時間とともにデュアルマンデートに一致する率に到達するのを手助けするために、委員会は追加でモーゲージ担保証券を月あたり400億ドルの購入の継続を決めた。委員会は平均残存期間延長プログラムの終了後に米国長期債を月あたり450億ドルの買い入れも行うつもりである。委員会は保有しているエージェンシー債やエージェンシーMBSの償還資金で再投資を行う既存の政策を維持することを決め、1月に満期を迎えた米国債のロールオーバーを入札時に再開することを決めた。これらの政策は長期金利に下向きの圧力が掛かることにより、モーゲージ市場をサポートし、広範囲な金融の状況をより緩和的にさせるのを手助けするだろう。
The Committee will closely monitor incoming information on economic and financial developments in coming months. If the outlook for the labor market does not improve substantially, the Committee will continue its purchases of Treasury and agency mortgage-backed securities, and employ its other policy tools as appropriate, until such improvement is achieved in a context of price stability. In determining the size, pace, and composition of its asset purchases, the Committee will, as always, take appropriate account of the likely efficacy and costs of such purchases.
委員会は、経済や金融の進展について入手できる情報を緊密に監視していくつもりである。もし労働市場の見通しが実質的に改善して行かないのであれば、物価安定の文脈のもとでそのような改善が達成されるまで、委員会は米国債やエージェンシーMBSを購入し続け、適切なときに他の政策手段を採用するだろう。資産買い入れの量、ペース、構成の決定について、委員会はいつでもそのような購入の効果とコストについて適切な考慮を行うつもりである。
To support continued progress toward maximum employment and price stability, the Committee expects that a highly accommodative stance of monetary policy will remain appropriate for a considerable time after the asset purchase program ends and the economic recovery strengthens. In particular, the Committee decided to keep the target range for the federal funds rate at 0 to 1/4 percent and currently anticipates that this exceptionally low range for the federal funds rate will be appropriate at least as long as the unemployment rate remains above 6-1/2 percent, inflation between one and two years ahead is projected to be no more than a half percentage point above the Committee’s 2 percent longer-run goal, and longer-term inflation expectations continue to be well anchored. The Committee views these thresholds as consistent with its earlier date-based guidance. In determining how long to maintain a highly accommodative stance of monetary policy, the Committee will also consider other information, including additional measures of labor market conditions, indicators of inflation pressures and inflation expectations, and readings on financial developments. When the Committee decides to begin to remove policy accommodation, it will take a balanced approach consistent with its longer-run goals of maximum employment and inflation of 2 percent.
最大雇用と物価安定に向けた進展をサポートし続けるために、委員会は資産買い入れプログラムが終了し経済回復が強化された後でも高い緩和的な金融政策のスタンスを維持していくつもりである。特に、委員会はFF金利の誘導目標を0-0.25%に据え置くことを決め、異例な低いFF金利の誘導目標は、失業率が6.5%を上回って推移するか、インフレが向こう1-2年、予測において委員会の2%の目的から0.5%上回らず、長期的なインフレ予想が十分に固定されている限りにおいて正当化されると予測する。委員会は、これらの閾値が以前の日付ベースのガイダンスと同様一貫性のあるものであるとみている。どのくらいの期間、高い緩和的な金融政策スタンスを決定するかということについては、委員会は、労働市場の状況の追加的な指標やインフレ圧力の指標やインフレ期待の指標を含む、他の情報も考慮していくつもりである。委員会が緩和政策を取り外しはじめると決定するときは、最大雇用と2%のインフレ率の長期的な目標と一致するようバランスがとれたアプローチを取るつもりである。
Voting for the FOMC monetary policy action were: Ben S. Bernanke, Chairman; William C. Dudley, Vice Chairman; Elizabeth A. Duke; Dennis P. Lockhart; Sandra Pianalto; Jerome H. Powell; Sarah Bloom Raskin; Jeremy C. Stein; Daniel K. Tarullo; John C. Williams; and Janet L. Yellen. Voting against the action was Jeffrey M. Lacker, who opposed the asset purchase program and the characterization of the conditions under which an exceptionally low range for the federal funds rate will be appropriate.
FOMCの金融政策に賛成票を投じたのは、B.バーナンキ委員長、W.ダドリー副委員長、E.デューク、D.ロックハート、S.ピアナルト、J.パウエル、S.ラスキン、J.スタイン、D.タルーロ、J.ウィリアムズ、J.イエレンの各委員。J.ラッカー委員は反対票を入れ、資産購入プログラムや、異例に低いFF金利のレンジが適切であるという状況を表記することに反対した。
なお、本日は筆者体調不良のため解説はお休みさせて頂きます。メルマガにて行う予定です。
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