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バーナンキ議長議会証言~サブシナリオの提示 

Fedバーナンキ議長は3月1日に上院銀行住宅都市委員会にて半期の金融政策についての議会証言を行った。まず、経済見通しについては以下のように示した。全文はFed "Chairman Ben S. Bernanke Semiannual Monetary Policy Report to the Congress Before the Committee on Banking, Housing, and Urban Affairs, U.S. Senate, Washington, D.C. March 1, 2011"を参照。


成長は2009年半ばから拡大し続けているが、労働市場は依然として弱く失業率は高いままである。経済の回復については金融・財政政策のサポートの効果による金融市場の安定、在庫の再構築によって生産が強くなっていることが要因である。個人消費は昨年の秋以降堅調であり、機器やソフトウェアにおける企業支出も拡大し続けている。製造業の生産は国内外の高い需要によって支えられている。家計やビジネスの信頼感は緩和的な金融政策と信用状況の改善によって上昇している。2011年は昨年よりも成長が幾分加速するだろう。Fedのボードメンバー及び各地区連銀総裁の1月の予測では2011年のGDP成長率は3.5-4%程度が見込まれている。


消費と生産の指標はバランスがとれたものとなっているが、雇用の改善は遅いままである。2008年の初めから2009年を通じて875万人の職が失われたが、2010年を通じて民間セクターでは100万人しか雇用が拡大していない。12月及び1月に失業率が低下したことや新規失業保険申請件数が減っていることから、今後数四半期に渡って労働市場はやや楽観的な素地があるようにみえる。しかし、経済回復は緩慢なままであり、失業率が通常のレベルに戻るのは数年に渡ると予測している(Even so, if the rate of economic growth remains moderate, as projected, it could be several years before the unemployment rate has returned to a more normal level.)FOMC参加者では2012年末の失業率について7.5-8%程度にとどまると予測している。強い雇用の創出期間が見えるまでは、経済回復は本当に確立されたものと考えることはできない(Until we see a sustained period of stronger job creation, we cannot consider the recovery to be truly established.)。


住宅市場は異例の弱さが継続している。空室とフォークロージャ物件が新築及び中古の住宅価格を圧迫している。そして新築の戸建て住宅の販売や建設は抑制されたままである。モーゲージ金利のレベルは低く、住宅価格は手の届きやすいところにあるが、潜在的に住宅購入者にとってモーゲージを組成するのは難しく、さらなる住宅価格の低下の可能性を懸念している。



ここでは、生産と消費については堅調さが見込まれており、2011年の成長率は1月のFOMCで示したように、3.5-4%レベルの範囲でみているとしており、2010年よりも成長ペースは加速するだろうとしている。一方で雇用の回復については、確かに楽観的なデータが示されてはいるものの、依然として失業率が高く、民間で100万人程度の雇用創出しか出来ていないことに対して不満であることを表明しており、自然失業率(NAIRU)のレベルにまで失業率が低下するのは数年かかるという主張を繰り返している。また、住宅市場についても弱さが目立っており、フォークロージャーの影響や信用状況のタイトさ、さらにはさらなる住宅の価格低下期待から市場が低迷しているままであることを表明している。経済見通しについては、全般的にこれまでの見方と1月のFOMCにおけるメンバーのコンセンサスを繰り返し表明しているに過ぎない。一方で、インフレについての見方は以下の通りである。


Inflation has declined, on balance, since the onset of the financial crisis, reflecting high levels of resource slack and stable longer-term inflation expectations. Indeed, over the 12 months ending in January, prices for all of the goods and services consumed by households (as measured by the price index for personal consumption expenditures (PCE)) increased by only 1.2 percent, down from 2.5 percent in the year-earlier period. Wage growth has slowed as well, with average hourly earnings increasing only 1.9 percent over the year ending in January. In combination with productivity increases, slow wage growth has implied very tight restraint on labor costs per unit of output.

インフレは、高いレベルでの資源活用の緩み(スラック)及び、長期間のインフレ期待の安定により、金融危機が始まって以降減少している。実際に前年比較において、1月のPCEデフレータはの伸びは1.2%であり、金融危機が始まった年の初めの2.5%から落ちている。賃金の伸びもまた鈍く、時間あたり平均賃金は前年比で1.9%の伸びでしか無い。生産性の上昇が組み合わさり、賃金上昇の鈍さはユニットレーバーコストを非常に厳しく抑制していることを示唆している。


FOMC participants see inflation remaining low; most project that overall inflation will be about 1-1/4 to 1-3/4 percent this year and in the range of 1 to 2 percent next year and in 2013. Private-sector forecasters generally also anticipate subdued inflation over the next few years. Measures of medium- and long-term inflation compensation derived from inflation-indexed Treasury bonds appear broadly consistent with these forecasts. Surveys of households suggest that the public's longer-term inflation expectations also remain stable.

FOMCの参加者はインフレが低いままであるとみている。多くの予測では、総合的なインフレは今年に1.25-1.75%、来年及び2013年に1-2%に範囲となる。民間のフォーキャストでは、向こう数年に渡ってインフレは抑制されていると予測している。TIPSから導きだされる中期及び長期のインフレもこれらのフォーキャストに一致する。家計への調査でも、公的な調査でも長期間のインフレ期待も安定したままであると示唆している。


Although overall inflation is low, since summer we have seen significant increases in some highly visible prices, including those of gasoline and other commodities. Notably, in the past few weeks, concerns about unrest in the Middle East and North Africa and the possible effects on global oil supplies have led oil and gasoline prices to rise further. More broadly, the increases in commodity prices in recent months have largely reflected rising global demand for raw materials, particularly in some fast-growing emerging market economies, coupled with constraints on global supply in some cases. Commodity prices have risen significantly in terms of all major currencies, suggesting that changes in the foreign exchange value of the dollar are unlikely to have been an important driver of the increases seen in recent months.

全体的なインフレは低いものの、昨年の夏以降いくつか顕著に価格の上昇が強まってきており、ガソリンや他のコモディティを含んでいる。とりわけ、数週間に渡って、中東及び北アフリカへの懸念や、グローバルレベルでの供給への懸念から原油価格はさらに上昇している。さらに、商品価格の上昇は、とりわけ成長が速いエマージングマーケット経済において、世界的に原材料への需要の高まりや供給への懸念も組み合わさっていることが影響している。コモディティ価格はこの期間すべての主要国の通貨で著しく上昇していることは、外為市場におけるドルの価格の変化が数カ月における価格の重要なドライバーとなったという可能性が低いことを示唆している。


The rate of pass-through from commodity price increases to broad indexes of U.S. consumer prices has been quite low in recent decades, partly reflecting the relatively small weight of materials inputs in total production costs as well as the stability of longer-term inflation expectations. Currently, the cost pressures from higher commodity prices are also being offset by the stability in unit labor costs. Thus, the most likely outcome is that the recent rise in commodity prices will lead to, at most, a temporary and relatively modest increase in U.S. consumer price inflation--an outlook consistent with the projections of both FOMC participants and most private forecasters. That said, sustained rises in the prices of oil or other commodities would represent a threat both to economic growth and to overall price stability, particularly if they were to cause inflation expectations to become less well anchored. We will continue to monitor these developments closely and are prepared to respond as necessary to best support the ongoing recovery in a context of price stability.

この数十年において、コモディティ価格の上昇から米国の消費者への価格転嫁率は全くもって低く、部分的にすべての生産コストに占める原材料の投入価格のウエイトは相対的に小さく、同時に長期間のインフレ期待の安定を反映したものである。現状、高いコモディティ価格からのコスト圧力は、安定的なユニットレーバーコストによっても相殺されている。従って、最も可能性の高い結果は、コモディティ価格の直近の上昇はほとんど一時的なものであり、米国の消費者物価の緩やかな増加により、(インフレの)見通しはFOMC参加者や多くの民間の予測と一致している。従って、もし、それらがインフレ期待のアンカーを外させるのであれば、原油や他のコモディティの持続的な上昇は経済成長や物価安定にとって脅威となる。我々は緊密にこれらの進展を監視し、価格の上昇に即し、経済回復にとって最大限のサポートが必要ならば、それに対応する準備が取られている。



インフレの見通しについては、しばらくの間低いままであるという従来の見通しを踏襲した。1月のFOMCにおける参加者の見通しとして総合的なインフレ率を1.25-1.75%としていることを繰り返し表明している。インフレについては金融危機以降伸び率が落ちており、(言葉こそ出さなかったものの)ディスインフレの基調となっていることは従来通りの見方である。以下のグラフはPCEデフレータの推移(出所:Fed)。


PCE Price Index 20110302.


そして、最近の原油を始めとした商品価格の上昇についての認識は、著しい成長率を記録しているエマージングマーケットを中心に需要が高まっていること、供給への懸念(生産能力や中東・北アフリカ情勢を含む)などから押し上げられており、ドルの減価に伴うものではないと言明した。このあたりはQE2批判としてよく使われる、「Fedのプリンティングマネー及びマネタイゼーションがドルの減価を引き起こし、その結果ドル建てで取引されているコモディティの価格が押し上げられている」というロジックを否定している。あくまでも緩和的な金融政策がコモディティ価格を押し上げたわけではなく、需給のバランスによってプライシングされているに過ぎないとしている。但し、後述するが、「株価などの金融資産上昇がQEのトランスミッションメカニズムとして語られている以上、コモディティの押し上げも同様ではないか?」という疑問を覆すほどの説得性にはやや欠ける部分があり、本日の下院の議会証言でも蒸し返される可能性がある。


そして、コモディティ価格の高騰は一時的なものであり、これまでも価格転嫁はあまり進んではいなかったとしており、今回の高騰に関しても最終製品にまで影響が及ぶとは考えていない。このビューはメインシナリオである。一方で、安定しているインフレ期待のアンカーが外れ、コモディティ価格が持続的に上昇する可能性というサブシナリオとしてのビューを提示したのが今回の議会証言における最大のポイントだったのではないかと思われる。


金融政策については従来通りの見解を繰り返しており、1月7日の議会証言の内容とそれ程変化があるわけではない(1月7日エントリ「バーナンキ議長議会証言~トーンは前進もデフレ警戒」参照)。金融市場におけるトランスミッションメカニズムとして、


・株価の上昇
・株価の変動率の低下
・社債スプレッドの低下
・マーケットにおけるインフレ期待が過去のヒストリカルなレベルにまで戻った
・金利が上昇しているのは米国経済への楽観的な見方及び投資家のFedのさらなる緩和期待の後退



であるとした。マーケットにおけるインフレ期待が過去のヒストリカルなレベルにまで戻ったというのは、ブレーク・イーブン・インフレーション(BEI)のことを指す。以下は10年BEIの推移(出所:Bloomberg)。


BEI 20110302.


2008年の金融危機以降、市場ではデフレ懸念を強くしたことからBEIも極度に低下したものの、その後の経済回復やインフレ期待の高まりによってBEIも2.4%にまで回復、このことから市場レベルでのデフレへの懸念は後退している。議長も、


most forecasters see the economic outlook as having improved since our actions in August; downside risks to the recovery have receded, and the risk of deflation has become negligible.
経済見通しの多くの予想は、8月の我々のアクション(償還再投資)以降改善している。経済回復のダウンサイドリスクは低下し、デフレへのリスクは無視しうるようになってきた。



として一連の行動について評価を下している。また、議員からの質疑でQE2の影響について聞かれたところ、6000億ドルの国債買い入れは75bp程度の利下げに相当するという見解を示した。これは以前にNY連銀のダドリー総裁が指摘していている。すなわち、"that $500 billion of purchases would provide about as much stimulus as a reduction in the federal funds rate of between half a point and three quarters of a point."(5000億ドルの買入で50-75bpの金利押し下げ効果と同等である)としている(NYFed "The Outlook, Policy Choices and Our Mandate"参照)。そのことについての認識を踏襲した発言であろうとみられる。


そして、最後に必要に応じて出口戦略のツールも準備してあるということを付け加えた。(追記)場合によってはQE2で終了、すなわちQE2'(QE終了後のバランスシートの維持=POMOの継続)には移行しないことも言及している("the Federal Reserve can also drain reserves by ceasing the reinvestment of principal payments on the securities it holds")。さらにFedの透明性を高めていくとした。このあたりは記者会見の実施などを行う計画があるものとみられ、今後Fedコミュニケーション戦略の動向にも関心が集まるものとみられる。


なお、本日も下院で議会証言が行われるが、ロイターが伝えたところでは、証言の原稿は1日のものと同一の内容となるとみられる。


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カテゴリ: 市場視点

タグ: Fed  金融政策  QE2  金利  マーケット  マクロ  FOMC 
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